6月25日(木)ふて寝

代休。10時からクラブワールドカップ、モンテレイ戦を観る。自分はアメリカに行けてないので何も言えない。

観戦後、久しぶりに介護も何もない休暇ということで、心置きなくふて寝というか昼寝をする。昼寝ほど気持ち良いことはない。毎日昼寝するべきだ。

井上章一『京都ぎらい』(朝日新書)と川本三郎『マイ・バッ・クページ』(平凡社ライブラリー)を読む。両著とも読み始めと読み終わりの感想がまったく異なる本だった。

6月25日(水)版元営業浦和会

北上次郎さんが47年に渡って記した「新刊めったくたガイド」を一冊の単行本にすべく編集作業をしているのだが、今日は著者名索引ができてきた。それだけで21ページ、1632人の名前がずらり。作品名索引を足したら索引だけで50ページを超えてしまうのではなかろうか。

書店さんに営業に行って、その北上次郎『新刊めったくたガイド大大全』の案内をしていると、書店員さんが予定しているページと値段を見て、「これ、初めの反応(売れ行き)で判断しちゃいけない本だね。すぐ買うお客さんも当然いるだろうけど、この値段だと自分へのご褒美みたいなときに購入されるから、長く積んでおかないとね」と話されるのだった。

こういう視点は日々読者=お客さんと対峙しているから持てるものであって、営業である私には考えにも及ばなかった。たしかに言われてみれば自分も3000円を超えるような本は図書カードをもらったり、何か仕事でひと段落ついた時に購入したりしているのだ。

刊行して3ヶ月くらいの売れ行きだけでなく、もっと長い時間軸、季節やタイミングを考えて販促していかなければならないと肝に銘じる。

もうひとつ、先日、イベントで書店さんに2日間立ってわかったのは、人通りが多いところが決して売上がいいわけではないということだった。

出版社の人間としては、ここに置いてもらいたいと思うような、例えばお店の入り口付近でいつも人がいるようなところが、実はお客さんがまったく足を止めないところだったりする、というのを一日中本屋さんにいて気づいた。

もちろん目につくという視覚的効果はあるかもしれないが、そこはあくまで人「通り」なのだった。

立ち止まらせ、手に取ってもらい、購入していただくというのは、たいへん難しいことだ。

目的買いに対しては出版社もアプローチできるけれど、それ以外の購入を促すのは書店員さんの技術である。

なんて話を書店員さんにしたら、「いや、きっとスーパーやコンビニはもっとしっかり研究してるよ」と謙遜されるだった。

夜は南浦和の居酒屋「ひと声」にて、第一回版元営業浦和会を開催。

浦和と名のつくところに住んでいる版元営業が集う飲み会で、今回は南浦和、東浦和、浦和美園在住者が揃った。浦和制圧のために、浦和、北浦和、西浦和、武蔵浦和、中浦和在住の版元営業を求む。

「ひと声」は殺風景な外観に反して、もつ焼きの大変な人気店であり、カウンターもお座敷もいっぱいだった。「専用のサーバーから直接注ぎ きめ細やかな泡となめらかな味わいが特徴」の「樽詰め生ホッピー」なんてものまであり、とても美味。

6月24日(火)珍しい人

出張明けで出社すると、事務の浜田が電話で何やら大声で話していた。

「ええええ、そんなに面白いですか?」

「ええええ、本になんてしませんよ。するわけないじゃないですかっ!」

ずいぶんとひどいいわれようの連載なのだ。そんな連載が「本の雑誌」にあっただろうか。
すると浜田が私に視線を向けた。

「あっ、ちょうど今会社に来たんで、電話変わりますよ。いえいえそんな立派な人間じゃないですから気楽に話してください」

そう言って電話を保留にする。

「杉江さん、炎の営業日誌のファンだという珍しい人からの電話です」

6月23日(月)チェックアウト

ホテルをチェックアウトしようとすると、窓を叩く土砂降りの雨が降り出す。雨雲レーダーを確認すると京都上空は真っ赤になっていた。どこかしらから雷鳴も聞こえてくる。しばらくロビーで新聞を読んで待機する。

出張の間は昼飯を食べない。集中力が切れるのと時間がもったいないのだった。

だからホテル選びは朝食が豊かなところだ。朝ごはん命なのだ。

京都はこの2月に高野秀行さんと泊まったホテルが、高野さんが20年の付き合いで初めて褒めてくれるほどの立派な朝食だった。そのホテルに今回も泊まったのだが、朝食のビュッフェで湯葉入りの茶碗蒸しをお盆に乗せていると、同様に茶碗蒸しを手にしたお婆さんがひそひそ声で話かけてきたのだ。

「お兄ちゃん、このホテルの朝食すごいよね」

おばあさん、だから私は京都はこの宿と決めているのですよ。

ちなみに出張の夜は、コンビニの弁当を食べるのが楽しみなのだった。外食よりも、ひとり気楽にホテルで開放された気分でつつくコンビニ飯は最高だ。

10時を過ぎて、雨脚が弱くなったので、傘を出して外に出る。今日は書店さんを廻って、午後は京都に完全移住した永江朗さんと新連載の打ち合わせなのだった。

6時にすべてを終えて、新幹線に乗車する。
今回も「生きててよかった」と思える出張だった。

6月22日(日)長い年月

4時に起きて京都のホテルでクラブワールドカップ、インテル・ミラノ戦を観る。自分はアメリカに行けてないので何も言えないが、ドーハの悲劇以来の衝撃を受ける。

「会いにゆける出版社フェス」二日目。

昨日今日とお隣は新興出版社のライツ社さんで、料理研究家リュウジのレシピ本や『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』がベストセラーとなった三宅香帆のデビュー作、そして20万部近く売れた『認知症世界の歩き方』と話題作がずらりとワゴンに並ぶ。売り子の営業も若者が元気よく声を出し、本を手にするお客さんもやたらと多い。

イベントは残酷でもある。目を惹く本がなければ、当然ながらお客さまは足を止めてくれない。お客さまはほとんど出版社名など興味がない。隣のブースには人垣ができているのに、自分のところは誰もいないなんてこともあり得るのだった。

昨日はライツ社の繁盛な様子を見て、若くて元気のある出版社はいいなあと羨ましく思っていたのだ。

朝、負けたとはいえ必死に戦った浦和レッズの選手の姿を思い出し、今日は俺もがんばるぞと気合を入れ直す。

すると午前中から本の雑誌の読者の方がたくさんやってきて、本の雑誌社のブースの前に人垣ができるのだった。なかにはお土産をくださる人までいて、いったいこれはなんなんだろうかと胸が熱くなる。

さらには目黒さんの『青が散る』(宮本輝著)の書評を読んで本を読み出し、その後は冒険小説を読み漁り、30年来本が好きで来れられたのは目黒さんのおかげですと涙を溜めて話すお客様もいらっしゃった。

「読者の人が会社目掛けて来られるなんてすごいですよね」と隣のライツ社の営業の方がぽつりと漏らす。

そうなのだ。それは椎名さんと目黒さんが作った「本の雑誌」という稀有な雑誌のおかげであり、そして50年という長い続けてこられたからこその力なのだった。

反対側の隣で本を売っているのは法蔵館だった。創業400年を超える出版社だ。

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